多くの課題をかかえて幕をあけた二十一世紀も早や三年目を迎えようとしておりますが、依然として当面の見通しさえ立たない状況が続いています。しかしながら、それら諸課題を分析・整理して展望を開くのも、解決策を創出するのも、ほかならぬ人間です。人的資源の活用こそ経営活動における最重要機能である、という事実は今後ますます重い意味をもってきます。
かえりみれば、二十世紀の後半は一口にいって市場原理の世界化に明け暮れた時代だったということができます。世界の奇跡と言われた日本の復興と高度成長の成果も、バブル経済にまきこまれた狂気の時期が終末を迎えた後にひきつづく、崩落と狼狽の十年を過ぎてみれば遠い過去の栄光として追憶のかなたへと消え去ってしまった感さえあります。しかしながら、その間にナンバー・ワンと称賛された日本的経営の実力が跡形もなく姿を消したと見えることはいかにも不自然です。
たしかに、今日は、構造改革と雇用の創出によるほかに再建の道はないといわれる状況のただ中にあり、朝野をあげて新ビジネスモデル、新技術の創出とその孵化促進に躍起となっています。かつて日本的経営の三種の神器と称された終身雇用、年功序列、企業別組合は、エンプロイアビリティー、実績主義、企業合理性の掛け声の中にかきけされ、リストラという名の人員削減への予期不安と、デフレへの怯えが、目下元気のよい企業に働く人びとの心にさえしのびよっているのが現状です。
日本の経営の強みは、世界一の生産技術とこれを支える企業体という名の、これも世界から羨まれる共同体的結束にありました。この強みへの自覚をとりもどし、勤勉に働き、誠実に取り組み、みんなで豊かになるという展望をどうやったら再び描き出すことができるか、これが今日の焦眉喫緊の要務といえましょう。
そのためには、新企業家の育成や、世界と伍して活躍できる金融専門家の養成や、労働の流動化によって消失しつつあるOJTの伝統の復活や、ITの全面活用による経営効率の飛躍的向上など取り組むべき課題は山積しています。そしてこれら諸課題の根本的解決は、究極的経営資源である人的資源の調達、活用、開発の各局面において、全く新しい発想のもとに有効な施策を打ち出すことができるかどうかにかかっていると申せましょう。
人びとの働く意欲を盛りあげ、余儀なく潜在化されてしまっているその能力を顕在化させるための人的資源管理が今や本格的に求められています。私たちはこのような問題意識の下に、人材育成学会を設立し、そのための社会的なシステム作り、人材戦略の検討、人材の調達、活用、開発、からメンタルヘルスの向上にいたるまでの諸領域にわたり、真摯な研究を開始することを決意いたしました。
一人ひとりを人件費の発生点と見る見方を一日も早く払拭し、資源の埋蔵点としてとらえなおし、人心の安定に寄与しようとする私どもの意図に広く共感して頂ける方々のご参加を切に希望いたします。